瓶
波が静まり、風が退いた。
四半世紀の歳月も、叫びも、理不尽に対する激昂も、すべてはこの静けさの中へ沈んでいった。
ピリオドは打てない。忘れさせてはくれない。世間が差し出す損得勘定など、この静寂の前には何の意味もなさない。失敗したのは自分ではないのだ。ただ、あの日々において、世界と歴史がその答えを受け入れなかっただけなのだから。
文字通り、荒れ狂う時期は過ぎ去った。
脳裏に流れるバレンボイムの「月光」。
あの第1楽章の静かな三連音符は、もはや重苦しい呪縛の音ではない。暗闇の底で静かに灯る火のように、一定の体温を持って、優しく胸の奥を打ち鳴らしている。
自分を打ち砕いた存在が、この世に繋ぎ止める絶対的な希望であったという皮肉。
それを否定するのではなく、自分の中に残された「最後の執着」としてそのまま抱きしめる。それこそが、地獄を生き抜き、今日まで自分を支え続けてくれた、温かい核だったのだ。
空の瓶に言葉を詰め、海へ投げ入れた。
一見動きのないこの凪の水面であっても、瓶は微かな揺らぎ——不規則なランダムウォークを繰り返しながら、ゆるやかに、どこか遠くの未来へ向かって漂っていく。まだ見ぬ誰かの岸辺を目指して。
そこへ、小さなひとしずくが落ちた。
静寂を破るためではなく、この温かな凪が、明日へと続いていくために。
落ちた一滴は波紋を描き、微かに光を映して、また静かな水面へと溶けていく。
叫びは消えた。
波のない水面に、いまはただ、希望を宿した、静かで暖かい「凪」だけが広がっている。
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