菜根譚
指先に残る、消えない煤(すす)の匂い。 いくら洗っても、この「業」という汚れだけは、 皮膚の裏側にまで染み付いて、離れてはくれない。 鏡を覗けば、 そこには聖人でも罪人でもない、ただの男が立っている。 善も悪も、同じ火で焼かれれば、 最後には等しく、区別のつかない灰になるというのに。 私たちは、自ら編み上げた執着の檻の中で、 自由という名の空虚を、ただ眺めている。 捨て去ることができないのは、 その重みこそが、自分がここに居る唯一の証(あかし)だからか。 ふと、背後で誰かの視線が重なる。 それは私を許すためではなく、 この「業」を背負ったまま、果てしない荒野を歩けと命じる声だ。 救いなど、とうの昔に風に捨てた。 ただ、濁った澱みの底で、 自らの暖簾を、命の限り守り抜く。 すべてが灰に還るその日まで、 私は、私の宿命(さだめ)を、一滴もこぼさずに飲み干そう。 ただ、そこに在る。 逃れられぬ自分を、抱きしめたまま。