戦後国際政治経済と金融化調査 (再掲)
戦後国際政治経済の構造変動と「金融的計算」の日常化:地政学危機、ドル覇権、および生の流動化に関する包括的統合分析 1. 序論:資本主義の現代的変容と「金融的計算」の理論的定式化 現代のグローバル資本主義における金融の機能は、単なる産業への資金供給や媒介者という領域を大きく越え、社会構造の全体ならびに個人の主体的存続そのものを浸透・規定する包括的な論理へと変容を遂げている 1 。小倉将志郎氏が提示する「金融的計算(financial calculation)」という概念は、この現代資本主義の変容の本質を可視化する基軸となる 1 。金融的計算とは、現代企業行動および社会構造の至る所に観察される「キャッシュフローを生み出す取引可能な存在として量を評価・管理・最適化する包括的な姿勢」として定式化される 1 。本来は製造業の工場設備や事業計画の現在価値を算出するために開発されたこの計量手法は、現代においては個人の教育、キャリア選択、人間関係、さらには存在そのものを「人間資本(Human Capital)」のアセットとして再定義するに至っている 1 。 この「金融的計算の日常化」という現象は、単なる金融技術の技術的進化や、新自由主義イデオロギーの抽象的な浸透のみによって生じたものではない 1 。それは、第二次世界大戦後の国際政治経済秩序の地殻変動——ベトナム戦争に伴うブレトンウッズ体制の瓦解、石油危機と中東地政学が生んだペトロダラーの流動化、ワシントン・コンセンサスに基づく新自由主義的債務危機の管理、プラザ合意を通じた日米間の資金還流構造、そして米国国内における株主価値至上主義の確立——と不可分に結合した歴史的帰結である 1 。マクロな地政学危機に対処するために創出されたリスク抽象化の金融技術は、国家の政策選択や企業のガバナンス構造を改変したのみならず、個人の日常的な生存戦略そのものを侵食していった 1 。 本報告書は、戦後金融史の地政学的動態と主要国間の相互関係を紐解き、巨視的な国際政治経済の危機管理手法がいかにしてミクロな個人の生活世界を再編成し、社会全体をポートフォリオ管理の対象へと作り替えていったのかを包括的に分析する 1 。 2. ブレトンウッズ体制の瓦解とリスク管理技術の創出 第二次世界大戦後の国際金融秩序を規定していたブレトンウッズ体制は、米ドルを金と...