報われぬ死者のまなざし (再掲)

「敗戦にいたるまで 国土に 固有の曲率を与えていたのは 天皇の存在であった。 だが、 天皇が 『われ 神にあらず』と 表明したときから、 天皇の像は 国土に曲率を与える 重力の中心から ゆっくりと落下していく。 重い力は 天皇から 無言の死者たちに移動する。 聖なるものは むしろ死者たちであり、 天皇も この死者たちの前に 額ずかねはならない。 この死者たちは その痛ましいまなざしによってしか 力をもたないとしてもである。 それゆえ 戦後社会が 天皇とともに 超越的なものを 失ってしまったというのは正しくない。 そこには 報われぬ死者たちという ひそかな超越があり、 天皇は 皇祖神を祀るだけでなく、 この無名の超越者を 慰霊する司祭として、 ゆるやかな超越性を 帯びるからである。」 137ページ 国土論 内田隆三 筑摩書房

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