質問: 今般の衆議院選挙の結果を受けて、 安倍政権の経済政策が信任され、 結果、 日銀が緩和を継続すれば、 世界経済への 流動性供給の 源であり続けることになり、 特に、 金利上昇の影響を受けやすい アジアの新興市場に 日本発の流動性が流れ込む だろうという指摘もあります。 ここで、松原隆一郎先生は、 「経常収支と 金融収支は一致する」 と書いておられる わけですが、 実際に 物(ブツ)が輸出入される、 という実物経済と、 例えば日銀が 金融緩和で 世界にマネーを 垂れ流して 世界の利上げ傾向に逆行する、 という国際金融の話を、 同じ土俵で括るのが適切なのか、 という疑問が生じました。 回答: 経常収支は 一国で 実物取引が完結せず 輸出入に差がある ことを表現する項目です。 日本のように それが黒字である (輸出が輸入よりも大きい)のは 商品が外国に売れて、 外国に競り勝って 良いことのように 見えるかもしれませんが、 別の見方をすれば 国内で買われず 売れ残ったものを 外国に引き取ってもらった とも言えます。 国内では 生産し カネが所得として 分配されていて 購買力となっているのに 全額使われなかったのですから、 その分は貯蓄となっています。 つまり実物を純輸出しているとは、 同時に国内で使われなかった 貯蓄も 海外で 使わねばならないことを 意味しているのです。 こちらが金融収支なので、 「経常収支と 金融収支が一致する」 のは同じことの裏表に過ぎません。 そこでご質問は、 「日銀が国債を 直接引き受けたりして 金融緩和し続けている。 このことは 経常収支・金融収支と どう関係があるのか?」 ということになろうかと思われます。 けれども日銀は バランスシートという ストックのやりとりをしており 経常収支・金融収支は フローのやりとりなので、 概念としては次元が異なります (「スピード」と「距離」に相当)。 すなわち、 金融収支はフローであり、 日銀の金融緩和はストックなので、 同じ水準では扱えないのです (スピードに距離を足すことはできない)。 しかし ストックとフローにも 影響関係はあるのではないか という考え方も確かにあり、 そもそも 一国内に限って それを金融資産の需給 (ストック) と 財の需給 (フロー) が金利で結ばれるという 考え方を示したのが ケインズの 『雇用・利子・貨幣の一般理論』でした。 とすれば その国際経済版が 成り立つのかは 重要な問題ではあります。 この論点は 多くの研究者が気になるようで、 奥田宏司「経常収支,財政収支の基本的な把握」 www.ritsumei.ac.jp/acd/cg/ir/college/bulletin/Vol.26-2/09_Okuda.pdf が論じています。 参考にしてください。 https://jp.reuters.com/article/japan-economy-idJPKCN1QP0DX
1. 序論:『それから』に映し出される明治期の近代化 本稿は、夏目漱石の小説『それから』を題材に、日本の近代化がもたらした状況と、それが個人の経験に与えた影響について考察するものである。特に、経済的豊かさが生み出す「自家特有の世界」への耽溺と、それが最終的に経済の論理に絡め取られていく過程、そしてテオドール・W・アドルノが指摘する、社会の合理化と精神世界における非合理への慰めを求める人々の傾向を、作品を通して分析する。 日本の明治時代(1868-1912年)は、長きにわたる鎖国状態を経て、1853年の黒船来航を契機に世界と対峙し、驚くべき速度で西洋の制度や文化を取り入れ、「近代国家」への道を歩んだ画期的な時代である 。この時期には、鉄道、郵便局、小学校、電気、博物館、図書館、銀行、病院、ホテルといった現代の基盤となるインフラや制度が次々と整備された 。政府は「富国強兵」や「殖産興業」といった政策を推進し、工場、兵舎、鉄道駅舎などの建設を奨励した。また、廃藩置県や憲法制定といった統治制度の変更に伴い、官庁舎や裁判所、監獄などが建設され、教育制度の導入は学校や博物館の整備を促した 。 西洋化の影響は日常生活にも深く浸透した。住宅様式においては、外国人居留地を起点に西洋館が普及し、やがて庶民の住宅にも椅子式の生活スタイルが段階的に浸透した 。食文化においても、仏教の影響で長らく禁じられていた肉食が解禁され、西洋列強との競争意識から日本人の体格向上と体力増強が期待された 。洋食は都市部の富裕層を中心に広まり、カレーライスやオムライス、ハヤシライスといった日本独自の洋食が定着した 。大正ロマン期(1912-1926年)には、西洋文化と日本独自の文化が融合し、「モガ」や「モボ」と呼ばれる若者たちが洋装に身を包み、カフェで音楽や映画を楽しむ「自由でおしゃれな空気」が醸成された 。経済面では、明治後期から軽工業が発展し、日露戦争前後には鉄鋼や船舶などの重工業が急速に発展し、日本の近代化を加速させた 。第一次世界大戦期には工業生産が飛躍的に増大し、輸出が輸入を上回る好景気を享受した 。 『それから』(1909年発表)は、夏目漱石の「前期三部作」の二作目にあたり、急速な近代化が進む日本を背景に、個人の欲望と社会規範の...
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