夏目漱石『それから』における「赤の世界」と「青の世界」の対比から見る近年の政治
夏目漱石の小説『それから』では、主人公の代助を取り巻く世界が「赤の世界」と「青の世界」という二つの対照的な色で象徴的に描かれています。「赤の世界」は、世俗的な欲望や功利的な合理性が支配する世界であり、代助の兄や友人である平岡が体現しています。他方、「青の世界」は、代助が求める精神的な充足や美意識が重視される世界であり、代助自身や、彼が惹かれる女性である三千代が象徴しています。
この「赤の世界」と「青の世界」の対比は、現代政治においても見られる現象を説明する上で有効な概念です。近年、政治の世界では、経済成長や効率性を重視する「赤の世界」的な価値観が優勢である一方、人々の感情や倫理観といった「青の世界」的な要素も無視できなくなっています。
合理性の「赤の世界」から感情の「青の世界」への振れ
かつて、政治は主に合理的な政策決定に基づいて行われていました。経済指標や効率性が重視され、感情的な要素は排除される傾向にありました。しかし、近年、政治における感情の重要性が認識されるようになり、人々の不満や不安、期待といった感情に訴えかける政治手法が台頭してきました。
例えば、2016年のアメリカ大統領選挙では、ドナルド・トランプ氏が、既存の政治家に対する不満や、社会の変化に対する不安といった感情に巧みに訴えかけ、大衆の支持を得ました。また、イギリスのEU離脱(ブレグジット)においても、移民問題や国家主権といった感情的な要素が、国民投票の結果に大きな影響を与えました。
「青の世界」の重要性の高まり
このような感情に訴えかける政治手法の台頭は、「青の世界」の重要性が高まっていることを示しています。人々は、単に経済的な豊かさや効率性だけでなく、心の豊かさや倫理観、社会的なつながりといった要素も求めています。政治家は、これらの要素を理解し、人々の感情に寄り添う姿勢を示すことが求められています。
「赤の世界」と「青の世界」のバランス
もちろん、「赤の世界」的な合理性も政治において重要な要素です。経済成長や効率性の向上は、社会の発展に不可欠です。しかし、それだけでは人々の幸福は実現できません。「青の世界」的な要素、すなわち人々の感情や倫理観、社会的なつながりといった要素とのバランスを取ることが重要です。
政治家は、「赤の世界」と「青の世界」の両方を理解し、バランスの取れた政策決定を行う必要があります。経済成長を重視しながらも、人々の感情に寄り添い、社会的なつながりを重視する。そのような政治が、これからの時代には求められています。
結論
夏目漱石の『それから』における「赤の世界」と「青の世界」の対比は、現代政治における合理性と感情の対立を説明する上で有効な概念です。近年、政治の世界では、感情的な要素が重要性を増しており、政治家は、人々の感情に寄り添う姿勢を示すことが求められています。「赤の世界」と「青の世界」のバランスを取りながら、人々の幸福を実現する政治が、これからの時代には必要です。
1. 序論:『それから』に映し出される明治期の近代化 本稿は、夏目漱石の小説『それから』を題材に、日本の近代化がもたらした状況と、それが個人の経験に与えた影響について考察するものである。特に、経済的豊かさが生み出す「自家特有の世界」への耽溺と、それが最終的に経済の論理に絡め取られていく過程、そしてテオドール・W・アドルノが指摘する、社会の合理化と精神世界における非合理への慰めを求める人々の傾向を、作品を通して分析する。 日本の明治時代(1868-1912年)は、長きにわたる鎖国状態を経て、1853年の黒船来航を契機に世界と対峙し、驚くべき速度で西洋の制度や文化を取り入れ、「近代国家」への道を歩んだ画期的な時代である 。この時期には、鉄道、郵便局、小学校、電気、博物館、図書館、銀行、病院、ホテルといった現代の基盤となるインフラや制度が次々と整備された 。政府は「富国強兵」や「殖産興業」といった政策を推進し、工場、兵舎、鉄道駅舎などの建設を奨励した。また、廃藩置県や憲法制定といった統治制度の変更に伴い、官庁舎や裁判所、監獄などが建設され、教育制度の導入は学校や博物館の整備を促した 。 西洋化の影響は日常生活にも深く浸透した。住宅様式においては、外国人居留地を起点に西洋館が普及し、やがて庶民の住宅にも椅子式の生活スタイルが段階的に浸透した 。食文化においても、仏教の影響で長らく禁じられていた肉食が解禁され、西洋列強との競争意識から日本人の体格向上と体力増強が期待された 。洋食は都市部の富裕層を中心に広まり、カレーライスやオムライス、ハヤシライスといった日本独自の洋食が定着した 。大正ロマン期(1912-1926年)には、西洋文化と日本独自の文化が融合し、「モガ」や「モボ」と呼ばれる若者たちが洋装に身を包み、カフェで音楽や映画を楽しむ「自由でおしゃれな空気」が醸成された 。経済面では、明治後期から軽工業が発展し、日露戦争前後には鉄鋼や船舶などの重工業が急速に発展し、日本の近代化を加速させた 。第一次世界大戦期には工業生産が飛躍的に増大し、輸出が輸入を上回る好景気を享受した 。 『それから』(1909年発表)は、夏目漱石の「前期三部作」の二作目にあたり、急速な近代化が進む日本を背景に、個人の欲望と社会規範の...
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