夏目漱石『それから』における「赤の世界」と「青の世界」の対比から見る近年の政治
夏目漱石の小説『それから』では、主人公の代助が「赤の世界」と「青の世界」という二つの対照的な世界観の間で葛藤する姿が描かれています。「赤の世界」は、合理性や功利主義が支配する現実世界を象徴し、「青の世界」は、感情や美意識が重視される精神世界を象徴しています。
この「赤の世界」と「青の世界」の対比は、近年の政治状況を分析する上でも有益な視点を提供してくれます。
合理性の「赤の世界」から情動の「青の世界」への振れ
現代社会は、効率性や経済成長といった合理性を追求する「赤の世界」に大きく傾倒してきました。しかし、その一方で、人々の感情やアイデンティティといった「青の世界」が置き去りにされてきた側面も否定できません。
近年、世界的にポピュリズムやナショナリズムが台頭していますが、これは「赤の世界」への反発として、「青の世界」が前面に出てきた現象と捉えることができます。グローバル化や経済格差の拡大によって、人々の不安や不満が高まり、感情的な訴えかけや排他的なナショナリズムに共感する人々が増えているのです。
日本政治における「青の世界」の台頭
日本政治においても、かつては自民党を中心とした「赤の世界」が主流でしたが、近年では、民主党や維新の会といった「青の世界」を志向する政党が支持を集めるようになっています。
特に、小泉純一郎政権以降、新自由主義的な改革が進められ、経済効率が重視されるようになりました。しかし、その一方で、格差の拡大や社会の分断といった問題も深刻化し、人々の不満が高まっています。
「赤の世界」と「青の世界」のバランス
政治は、合理性だけでなく、人々の感情やアイデンティティにも配慮する必要があります。「赤の世界」と「青の世界」のバランスをどのように取るかが、現代政治の大きな課題と言えるでしょう。
『それから』が示唆する現代政治の課題
『それから』の主人公代助は、「赤の世界」と「青の世界」の間で葛藤し、最終的には自分の感情に正直に生きる道を選びます。この物語は、現代社会においても、合理性だけでなく、自分の感情や価値観を大切にすることの重要性を教えてくれます。
現代政治においても、効率性や経済成長といった「赤の世界」の価値観だけでなく、人々の感情やアイデンティティといった「青の世界」の価値観にも目を向ける必要があります。
『それから』は、現代政治が抱える課題を考える上で、示唆に富む作品と言えるでしょう。
1. 序論:『それから』に映し出される明治期の近代化 本稿は、夏目漱石の小説『それから』を題材に、日本の近代化がもたらした状況と、それが個人の経験に与えた影響について考察するものである。特に、経済的豊かさが生み出す「自家特有の世界」への耽溺と、それが最終的に経済の論理に絡め取られていく過程、そしてテオドール・W・アドルノが指摘する、社会の合理化と精神世界における非合理への慰めを求める人々の傾向を、作品を通して分析する。 日本の明治時代(1868-1912年)は、長きにわたる鎖国状態を経て、1853年の黒船来航を契機に世界と対峙し、驚くべき速度で西洋の制度や文化を取り入れ、「近代国家」への道を歩んだ画期的な時代である 。この時期には、鉄道、郵便局、小学校、電気、博物館、図書館、銀行、病院、ホテルといった現代の基盤となるインフラや制度が次々と整備された 。政府は「富国強兵」や「殖産興業」といった政策を推進し、工場、兵舎、鉄道駅舎などの建設を奨励した。また、廃藩置県や憲法制定といった統治制度の変更に伴い、官庁舎や裁判所、監獄などが建設され、教育制度の導入は学校や博物館の整備を促した 。 西洋化の影響は日常生活にも深く浸透した。住宅様式においては、外国人居留地を起点に西洋館が普及し、やがて庶民の住宅にも椅子式の生活スタイルが段階的に浸透した 。食文化においても、仏教の影響で長らく禁じられていた肉食が解禁され、西洋列強との競争意識から日本人の体格向上と体力増強が期待された 。洋食は都市部の富裕層を中心に広まり、カレーライスやオムライス、ハヤシライスといった日本独自の洋食が定着した 。大正ロマン期(1912-1926年)には、西洋文化と日本独自の文化が融合し、「モガ」や「モボ」と呼ばれる若者たちが洋装に身を包み、カフェで音楽や映画を楽しむ「自由でおしゃれな空気」が醸成された 。経済面では、明治後期から軽工業が発展し、日露戦争前後には鉄鋼や船舶などの重工業が急速に発展し、日本の近代化を加速させた 。第一次世界大戦期には工業生産が飛躍的に増大し、輸出が輸入を上回る好景気を享受した 。 『それから』(1909年発表)は、夏目漱石の「前期三部作」の二作目にあたり、急速な近代化が進む日本を背景に、個人の欲望と社会規範の...
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