先週日曜日の都知事選では、
ネット界隈以外ではほぼ無名だった石丸伸二氏が、全体の2位の得票数を得る躍進を見せた。
これはもちろん、YouTubeを代表とするSNSのなせる業であるが、根底には、
マグマのように溜まった生活者の
怨嗟の声を受け止める既存の政党がなかったことが
起因していると思われる。
彼の
カール・シュミット流の
友/敵
理論スタイルが
多くの有権者に支持された
背景には、
消費者物価などの高止まりによる、実質賃金の目減りが
続いていることが挙げられる。
ダニ・ロドリックが提唱したトリレンマによれば、
グローバリゼーションと民主主義と国民的自己決定の3つを
同時にすべて充足することは出来ない。
日本は民主主義をある程度実現しているが、
グローバリゼーションにより、世界的に
中産階級が没落し、経済格差が広がっている。
それが既存の政党政治への
不信感に拍車をかけたと考えられる。
また、中東情勢の混乱により、スエズ運河が機能不全に陥り、
パナマ運河も、異常気象による水位低下により、
機能不全に陥っている。
言うまでもなく、地球規模の気候変動は、
特に農産物の生産価格を不安定化させている。
また、日本の国内事情としては、
人手不足や円安が、消費者物価を更に上昇させている。
こうした要因が、ますます
既存の政党政治への不信感を
増す結果となっていると考えられる。
1. 序論:『それから』に映し出される明治期の近代化 本稿は、夏目漱石の小説『それから』を題材に、日本の近代化がもたらした状況と、それが個人の経験に与えた影響について考察するものである。特に、経済的豊かさが生み出す「自家特有の世界」への耽溺と、それが最終的に経済の論理に絡め取られていく過程、そしてテオドール・W・アドルノが指摘する、社会の合理化と精神世界における非合理への慰めを求める人々の傾向を、作品を通して分析する。 日本の明治時代(1868-1912年)は、長きにわたる鎖国状態を経て、1853年の黒船来航を契機に世界と対峙し、驚くべき速度で西洋の制度や文化を取り入れ、「近代国家」への道を歩んだ画期的な時代である 。この時期には、鉄道、郵便局、小学校、電気、博物館、図書館、銀行、病院、ホテルといった現代の基盤となるインフラや制度が次々と整備された 。政府は「富国強兵」や「殖産興業」といった政策を推進し、工場、兵舎、鉄道駅舎などの建設を奨励した。また、廃藩置県や憲法制定といった統治制度の変更に伴い、官庁舎や裁判所、監獄などが建設され、教育制度の導入は学校や博物館の整備を促した 。 西洋化の影響は日常生活にも深く浸透した。住宅様式においては、外国人居留地を起点に西洋館が普及し、やがて庶民の住宅にも椅子式の生活スタイルが段階的に浸透した 。食文化においても、仏教の影響で長らく禁じられていた肉食が解禁され、西洋列強との競争意識から日本人の体格向上と体力増強が期待された 。洋食は都市部の富裕層を中心に広まり、カレーライスやオムライス、ハヤシライスといった日本独自の洋食が定着した 。大正ロマン期(1912-1926年)には、西洋文化と日本独自の文化が融合し、「モガ」や「モボ」と呼ばれる若者たちが洋装に身を包み、カフェで音楽や映画を楽しむ「自由でおしゃれな空気」が醸成された 。経済面では、明治後期から軽工業が発展し、日露戦争前後には鉄鋼や船舶などの重工業が急速に発展し、日本の近代化を加速させた 。第一次世界大戦期には工業生産が飛躍的に増大し、輸出が輸入を上回る好景気を享受した 。 『それから』(1909年発表)は、夏目漱石の「前期三部作」の二作目にあたり、急速な近代化が進む日本を背景に、個人の欲望と社会規範の...
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