第一部 第一章 第八篇

 

アキラの暖簾問答：第一幕――「正しさ」に疲れたあなたへ

　ありがたいことに、暖簾を掲げてからというもの、表通りからいくつかの問いが投げかけられるようになった。今日はその中から、現代を生きる私たちが避けては通れない「ある悩み」について、暖簾の奥から答えてみたいと思う。

【問い】

「アキラさん。私は会社やSNSで、常に『正解』を求められることに疲れ果ててしまいました。正論を振りかざす人たちの中で、自分の居場所がないように感じます。どうすれば、もっと楽に、自分らしくいられるでしょうか？」

【アキラの回答】

　まず、その「疲れ」は、あなたが誠実に生きようとしている証拠だ。まずは自分に「お疲れ様」と言っていい。

　さて、私の答えはシンプルだ。「正しさ」を競う土俵から、一歩降りてしまうこと。 　世の中の言う「正論」なんてものは、その時の流行りや、声の大きい誰かが作った「消費期限付きのルール」に過ぎない。そんなものに一喜一憂して、自分の貴重な精神資本を削るのは、あまりにもコストパフォーマンスが悪い。

　私が提案するのは、「正しさ」ではなく「美学（スタイル）」で生きることだ。

　正論は他人を攻撃する武器になるが、美学は自分を守る盾になる。 　「これは正しいか？」と外側に基準を求めるのをやめ、「これは自分の暖簾にふさわしい振る舞いか？」と内側に問いかけるんだ。他人の物差しで100点を取る必要はない。自分の物差しで、自分に嘘をついていないかどうか。その一点だけに集中すればいい。

　居場所がないと感じるなら、自分で「小さな暖簾」を掲げればいい。 　そこは、あなたがルールを決める聖域だ。誰かに理解されなくても、あなたが「これが私の味だ」と胸を張れるなら、そこは世界で一番居心地の良い場所になる。

　「正しさ」は人を孤独にするが、「美学」は同じ匂いのする仲間を、静かに引き寄せる。 　無理に騒がしい広場で踊る必要はない。あなたは、あなたの暖簾を磨いていればいいんだ。