阪神銀行の頭取である万俵大介、
その長男が、阪神銀行の子会社?
である阪神特殊鋼の専務である、万俵鉄平なんだけど、
万俵鉄平は、
高炉建設のために資金集めに奔走して、
さまざまな困難に直面する・・・
というところを読んでる最中なんですが、
ふと疑問に思ったのは、
なんで資金調達の先が、父親が頭取である阪神銀行も含めて、
ぜんぶ銀行なんだろう?
株式発行とか、社債発行するとか、
なんで直接金融という選択肢を丸っきり考えないんだろう?
なぜ銀行という間接金融のみで資金調達しようとするのか、
不思議だ。
作中で、阪神特殊鋼のアメリカの取引先が、買収されて、
受注がストップしたあたりから
雲行きが怪しくなるんだけど、
逆にいえば、
アメリカでは企業買収というのは普通に行われていた、ということだろう。
そして、冷戦終結とともに、それまで武器開発に向けられていた頭脳が
金融工学に向かい、革新的な金融形態を作り上げた。
話がそれたが、阪神特殊鋼のメイン・バンクである阪神銀行は、
金融再編に対抗して、
上位の都市銀行との合併を目論んでるんだけど、
それだけのため、と言ってはなんだが、
とにかくそのために
娘を嫁がせた大蔵官僚を使って、機密情報を知らせてもらったり、
政界の大物とも姻戚関係を結んだりとか、
ありとあらゆることをやっている。
それはそれで物語としては凄く面白いんだけど、
銀行同士の合併ということになれば、当局が絡むのは仕方ないとはいえ、
直接金融という手段が有効ならば、
こんな平安貴族まがいの無駄なことをしなくても済むはずだ。
真山仁による「ハゲタカ」は、
M&Aって何?を勉強したくて読んだが、
小説の出来としては「華麗なる一族」には遠く及ばないものの、
対比として浮かび上がってくる時世の違いを知るには、適している。
1. 序論:『それから』に映し出される明治期の近代化 本稿は、夏目漱石の小説『それから』を題材に、日本の近代化がもたらした状況と、それが個人の経験に与えた影響について考察するものである。特に、経済的豊かさが生み出す「自家特有の世界」への耽溺と、それが最終的に経済の論理に絡め取られていく過程、そしてテオドール・W・アドルノが指摘する、社会の合理化と精神世界における非合理への慰めを求める人々の傾向を、作品を通して分析する。 日本の明治時代(1868-1912年)は、長きにわたる鎖国状態を経て、1853年の黒船来航を契機に世界と対峙し、驚くべき速度で西洋の制度や文化を取り入れ、「近代国家」への道を歩んだ画期的な時代である 。この時期には、鉄道、郵便局、小学校、電気、博物館、図書館、銀行、病院、ホテルといった現代の基盤となるインフラや制度が次々と整備された 。政府は「富国強兵」や「殖産興業」といった政策を推進し、工場、兵舎、鉄道駅舎などの建設を奨励した。また、廃藩置県や憲法制定といった統治制度の変更に伴い、官庁舎や裁判所、監獄などが建設され、教育制度の導入は学校や博物館の整備を促した 。 西洋化の影響は日常生活にも深く浸透した。住宅様式においては、外国人居留地を起点に西洋館が普及し、やがて庶民の住宅にも椅子式の生活スタイルが段階的に浸透した 。食文化においても、仏教の影響で長らく禁じられていた肉食が解禁され、西洋列強との競争意識から日本人の体格向上と体力増強が期待された 。洋食は都市部の富裕層を中心に広まり、カレーライスやオムライス、ハヤシライスといった日本独自の洋食が定着した 。大正ロマン期(1912-1926年)には、西洋文化と日本独自の文化が融合し、「モガ」や「モボ」と呼ばれる若者たちが洋装に身を包み、カフェで音楽や映画を楽しむ「自由でおしゃれな空気」が醸成された 。経済面では、明治後期から軽工業が発展し、日露戦争前後には鉄鋼や船舶などの重工業が急速に発展し、日本の近代化を加速させた 。第一次世界大戦期には工業生産が飛躍的に増大し、輸出が輸入を上回る好景気を享受した 。 『それから』(1909年発表)は、夏目漱石の「前期三部作」の二作目にあたり、急速な近代化が進む日本を背景に、個人の欲望と社会規範の...
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