2022年3月7日月曜日
山岡先生のレポート
ホッブズ、ジョン=ロック、ヒュームに至る系譜は、イギリスが世界に冠たる資本主義国家としての歩みと平仄を合わせている。ホッブズの時代には、英蘭戦争を戦い、ジョン=ロックの時代にはプファルツ継承戦争とともに北米での戦争を戦っている。ヒュームの死亡年には、アダム=スミスが「国富論」を刊行している。まさにそのような時代状況の移り変わりの中で、各々の思想家の理論が展開されたのである。
ホッブズは、機械論的自然観の曙光の中で、国家をまさに数学的厳密さをもって、その必要性を論証しようと試みた。ジョン=ロックの時代には、名誉革命が起き、イギリス立憲主義的議会制民主主義が確立された。また、1687年には、ニュートンは「プリンキピア」を刊行している。まさに機械論的自然観が、実際の制度、科学の発展の端緒と歩調を合わせながら、花開こうとしている。ジョン=ロックのいわゆる「抵抗権」は、現実のめまぐるしく変わる政治状況のなかで、政府というものが、市民から「信託」を受けたものである、というある種のプリンシパル=エージェンシー関係にある。Authorとしての国民が、Artificial personとしての¬リヴァイアサンに主権の一部を放棄し、authorizeする、とする理論とは若干異なる。
ヒュームは、金本位制を擁護したことでも知られているが、没年にアダム=スミスによる「国富論」が刊行されていることからもわかるように、まさにイギリスが産業革命を成し遂げ、世界の工場として飛躍していこうという新世界の入り口に立っていた。ヒュームは経済の論理を重視し、特に経済的慣行の中で、ひとびとが繰り返し取引される中で生成される秩序に着目したという点で、保守主義者であったと言われている。
ルソーの時代になると、イギリスではエンクロージャーに代表されるように農業革命も起こり、ますます近代資本主義が進展するとともに、貧富の格差も生まれ始めた。そのような状況のなかで、ルソーは己自身が己の主人であり、また奴隷である、そのような状況のなかで、人民が定期的に集まり「一般意志」を形成することで、だれも疎外されない社会が生み出されると考えた。
カントは、大陸合理論とイギリス経験論を総合したとして名高いが、デカルト的理性主義から、ヒュームの懐疑論によって「独断のまどろみ」から目覚めたと主張したと言われている。カントの定言命法はAを求めるためにXをする、というものではなく、ただXをせよ、という命令を自己に課し、それが社会の規範と齟齬がないようにせよ、と説くものであった。己の倫理と社会の規範の緊張関係をつねに意識することによって、はじめて人間は未成年状態から脱することができる、といういわゆる啓蒙主義は、のちのロールズにも受け継がれている。
ロールズは、我々は道徳について多かれ少なかれ直観的な確信を持っているが、それだけでは足りず、反照的反復によって、優先順位をつけなければならない。それは、カント的倫理観が現代にそのまま通用するものではないことを踏まえつつ、現実と理念的正義の間を絶えず往復し、絶対的な善というものが成り立ちえない現代社会において、公正な社会を実現するには、公共理性に訴えかけるようなやり方をしなければならない、と説いた。
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