2022年3月7日月曜日

アドルノと個人主義

ハイデガーは、個人が共同現存在のまどろみから覚醒して、ドイツ民族としての使命に目覚めなければならない、と説いたわけであるが、それが、かつての神聖ローマ帝国という誇張を含んだ憧憬の土地を回復する、というドイツ民族の「使命」を掲げるナチスのプロパガンダと共鳴してしまった。 アドルノは、そもそもの共同現存在からの個人としての覚醒が、集団的暴走と親和性があったことを念頭に置きながらも、集団に埋没しない理性的な個人としての人間を提示した。 理性の暴力性に警鐘を鳴らしながらも、主体性の原史に既に刻印されている理性から逃れる道は、再び集団的暴走への道であると考えた。 計算的理性が近代的個人を産み出した源泉であるとしても、理性から逃走し、始源のまどろみへと回帰することはなお危険であると説いたのである。

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