国際収支発展段階説は、イギリスの経済学者A.K.Cairncrossによって提唱された、一国の経済発展段階と国際収支の関係性を説明する理論です。この理論では、国の経済発展を6つの段階に分け、それぞれの段階における国際収支の特徴を解説しています。
国際収支発展段階説の6つの段階
第1段階:未成熟な債務国
経済発展の初期段階にある国。
輸出が少なく、輸入が多い状態。
貿易収支は赤字になりやすい。
海外からの借入れが多く、対外純資産はマイナス。
第2段階:成熟した債務国
経済発展が進み、輸出が増加する。
貿易収支は黒字に転じるが、過去の借入れの返済により、所得収支は赤字のまま。
経常収支は依然として赤字で、対外純資産もマイナスの状態が続く。
第3段階:債務返済国
輸出がさらに増加し、貿易収支の黒字が拡大する。
所得収支も黒字に転じ、経常収支が黒字となる。
海外からの借入れを返済し、対外純資産がプラスに転じる。
第4段階:未成熟な債権国
経常収支の黒字が継続し、対外純資産が増加する。
海外への投資が増え始めるが、まだ債権国としての地位は確立されていない。
第5段階:成熟した債権国
経常収支の黒字が安定し、対外純資産が大幅に増加する。
海外からの投資収益が増え、所得収支が大きく黒字となる。
世界経済において、資金供給国としての役割を担う。
第6段階:債権回収国
対外純資産がピークに達し、その後減少に転じる段階。
国内の投資機会が減少し、海外からの投資回収が進む。
経常収支の黒字が縮小し、貿易収支も赤字になることがある。
国際収支発展段階説のポイント
経済発展段階に応じて、国際収支の構成要素(貿易収支、所得収支、経常収支、対外純資産)が変化する。
各国は、それぞれの発展段階に応じた国際収支の構造を持つ。
国際収支の均衡は、経済発展の過程において重要な課題となる。
国際収支発展段階説は、一国の経済発展と国際収支の関係性を理解する上で、有用な理論です。この理論を参考に、各国の経済状況や国際的な役割を分析することができます。
補足
国際収支発展段階説は、あくまで理論的なモデルであり、現実の経済は多様な要因によって影響を受けるため、必ずしもこの理論通りに発展するとは限りません。しかし、国際収支の長期的な動向を把握する上で、参考になる考え方です。
1. 序論:『それから』に映し出される明治期の近代化 本稿は、夏目漱石の小説『それから』を題材に、日本の近代化がもたらした状況と、それが個人の経験に与えた影響について考察するものである。特に、経済的豊かさが生み出す「自家特有の世界」への耽溺と、それが最終的に経済の論理に絡め取られていく過程、そしてテオドール・W・アドルノが指摘する、社会の合理化と精神世界における非合理への慰めを求める人々の傾向を、作品を通して分析する。 日本の明治時代(1868-1912年)は、長きにわたる鎖国状態を経て、1853年の黒船来航を契機に世界と対峙し、驚くべき速度で西洋の制度や文化を取り入れ、「近代国家」への道を歩んだ画期的な時代である 。この時期には、鉄道、郵便局、小学校、電気、博物館、図書館、銀行、病院、ホテルといった現代の基盤となるインフラや制度が次々と整備された 。政府は「富国強兵」や「殖産興業」といった政策を推進し、工場、兵舎、鉄道駅舎などの建設を奨励した。また、廃藩置県や憲法制定といった統治制度の変更に伴い、官庁舎や裁判所、監獄などが建設され、教育制度の導入は学校や博物館の整備を促した 。 西洋化の影響は日常生活にも深く浸透した。住宅様式においては、外国人居留地を起点に西洋館が普及し、やがて庶民の住宅にも椅子式の生活スタイルが段階的に浸透した 。食文化においても、仏教の影響で長らく禁じられていた肉食が解禁され、西洋列強との競争意識から日本人の体格向上と体力増強が期待された 。洋食は都市部の富裕層を中心に広まり、カレーライスやオムライス、ハヤシライスといった日本独自の洋食が定着した 。大正ロマン期(1912-1926年)には、西洋文化と日本独自の文化が融合し、「モガ」や「モボ」と呼ばれる若者たちが洋装に身を包み、カフェで音楽や映画を楽しむ「自由でおしゃれな空気」が醸成された 。経済面では、明治後期から軽工業が発展し、日露戦争前後には鉄鋼や船舶などの重工業が急速に発展し、日本の近代化を加速させた 。第一次世界大戦期には工業生産が飛躍的に増大し、輸出が輸入を上回る好景気を享受した 。 『それから』(1909年発表)は、夏目漱石の「前期三部作」の二作目にあたり、急速な近代化が進む日本を背景に、個人の欲望と社会規範の...
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