2023年5月3日水曜日
やさしい経済学 「衰退する日本の中間層」 田中聡一郎 駒沢大学准教授 より 抜粋、編集
先進諸国で中間層の衰退が話題になっています。
人工知能(AI)やロボット技術の発展で、中間層が担ってきた定型的な仕事が失われ、労働市場の二極化が進むのではないかということも議論されています。
また従来、リベラル政党を支持していた労働者階級も、グローバル化や移民労働者の増加で安定した雇用が失われ、没落したと感じています。
その不満が米トランプ政権の誕生や西欧での極右政党の台頭など、ポピュリズムや政治的分断の背景にあるようです。
日本もかつては「総中流社会」といわれ、平等な社会と考えられてきました。
しかし2000年代以降、格差社会が到来したといわれます。
なぜ、中間層の存在が重要なのでしょうか。
それは、経済成長と民主主義の基礎となる存在だからです。
経済的な観点からは、
中間層の家計は教育投資に力を入れる傾向があり、
それは社会全体としても人的資本の蓄積につながります。
その結果、
イノベーションや経済成長を生み出す原動力が生まれるのです。
また、
中間層の衰退で所得分布が二極化すると、
高所得層から低所得層への更なる所得移転が必要となるでしょう。
その結果、社会保障制度の維持が難しくなったり、
財源問題を巡る政治的対立が深刻化したりすることも考えられます。
中間層の衰退は、イノベーションの停滞や政治的分断を引き起こしかねません。
経済発展と社会の安定には分厚い中間層が必要といえます。
中間層の衰退の背景には、「仕事の二極化」の進行があるといわれます。
グローバル経済や情報通信技術(ICT)の発展で、
中間層が担ってきた定型タスクの仕事が喪失したという指摘です。
中間層においても、自動化による仕事喪失のリスクは小さくないのです。
またOECDの中間層の報告書によると、
今後の人工知能(AI)やロボットなどの自動化技術の進化によって、
さらに中間層の仕事が失われるのではないかと推測しています。
自動化リスクの高い職業に従事する労働者の割合は、
高所得層のうち11%、中所得層では22%と推計されています。
中間層においても、自動化による仕事喪失のリスクは小さくないのです。
日本の家計は中間層であるという自己認識を持っていますが、
実際には生活不安を抱えています。
実態は、
所得の二極化が生じているのではなく、
社会全体の低所得化が、
日本の中間層の衰退における本当の実態といえます。
日本の中間層の経済的安定性が揺らいでいます。
実質賃金が伸び悩む一方で、
社会保険料、住宅・教育コストの圧迫で、生活が苦しいと考える世帯が増えています。
その生活防衛の帰結が、
統計開始以来最少の出生数という少子化なのではないでしょうか。
中間層は所得水準が高い現役期に住宅を購入し、
高齢期の年金生活に備えると考えられてきました。
政府にとっても、
住宅所有は高齢者の経済的基盤となり、
将来の年金給付の十分性を高めるうえで望ましいものでした。
そのため、政府系金融機関による住宅資金の貸し付け、
住宅ローン控除といった税制優遇などで、
持ち家取得を促進してきたのです。
つまり、中間層のライフサイクルを支える柱は年金と住宅所有だったのです。
しかし、それが揺らぎつつあります。
現役世代の持ち家率は徐々に低下しています。
日本の社会保障制度は高い持ち家率が前提でした。
中間層での住宅資産形成が難しくなっている以上、
社会保障制度もモデルチェンジが求められています。
若い世代を中心に収入が減少するなかで、
固定費である住宅費の負担が大きくなっています。
教育費は大学進学率の上昇と学費の高騰などが要因でしょう。
現役世代の中間層は、
賃金が上がらない中で、
住宅費や教育費の生活コストの問題に直面しています。
中間層の衰退は、
所得階層の固定化につながる恐れもあります。
子育て世帯が中間層から脱落して、
社会的流動性が失われるためです。
若年世代が中間層になれないなら、
子どもを持つことをためらいます。
人口減少に歯止めをかけ、日本経済を再興するためにも、中間層の復活が必要です。
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