2022年10月24日月曜日
「金融と社会」質問その4
1990年代以降、企業のグローバル展開が加速していくのに合わせて、国内では非正規雇用への切り替えや賃金の削減など、生産コスト抑制が強まりました。大企業はグローバル展開と国内での労働条件引き下げにより、利潤を増加させてきたのです。しかし、その増加した利潤は再びグローバル投資(国内外のM&Aを含む)に振り向けられます。そして、グローバル競争を背景にした規制緩和によって、M&Aが増加していきますが、これによって株主配分に重点を置いた利益処分が強まり、所得格差の拡大が生じています。また、国内の生産コスト抑制により、内需が縮小していきますが、これは企業に対してさらなるグローバル展開へと駆り立てます。 このように、現代日本経済は国内経済の衰退とグローバル企業の利潤拡大を生み出していく構造になっているのです。1990年代以降、景気拡大や企業収益の増大にも関わらず、賃金の上昇や労働条件の改善につながらないという問題を冒頭で指摘しましたが、このような日本経済の構造に要因があるのです。 新版図説「経済の論点」旬報社 p.129より
つまり、日本の内需の縮小と労働市場の貧困化は、企業の海外進出と表裏一体であり、その見返りとしての、海外からの利子・配当などの、いわゆる第一次所得収支の恩恵として現れます。 https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/future/sentaku/s2_6.html https://jp.reuters.com/article/japan-economy-idJPKCN1QP0DX
円安バイアスが語られる文脈で、家計は資産を国際投資に振り向けることが推奨される傾向にありますが(2022/8/29 日経新聞15面)、放送大学「金融と社会」を担当されている、同志社大学教授の野間敏克先生に質問箱を通しておうかがいしたところ、家計が海外に投資したマネーは、経常収支の上では、黒字に計上される、との回答を頂戴しました。
しかし、そうすると、財政と経常収支の関係から見た場合、仮に経常収支が黒字でも、それで(フローで見た場合)、民間部門の貯蓄が政府部門の赤字をファイナンスできない虞があるのではないでしょうか?
あるいは、既に日本は、国債発行にあたり、海外資本を導入せざるを得ない状況なのでしょうか?また、その場合、今後の日本国債の安定的消化という観点から見ると、財政は持続可能なのでしょうか?
とはいえ、2022/9/21 日経新聞8面 によれば、物価上昇でも日本人は現預金志向が強く、円
資産の海外フライトは、思ったほど強くは起こらなかったようですが。
以下、「金融と社会」ご担当の野間先生との質疑応答です。
質問:2022年6月28日付け日経新聞朝刊に、 「家計資産、脱『預金』の兆し」と題して、 末尾に、 「いくら運用手段を充実させても、 企業の競争力が海外より劣っていれば家計の資金が海外に逃避する『キャピタルフライト』を招いて国力低下につながる。 (以下略)」 としてありましたが、 このような家計部門の海外への移転は、 経常収支の統計上どのように現れるのでしょうか?
回答:国連にあわせて、2014年に国際収支関連統計の大幅改訂がありましたので、統計上の扱いが大きく変わりました。 それ以前は、海外の国債や株式を買うと、日本のお金が出ていくから資本収支赤字とされ、お金が逃げていく「キャピタルフライト」のイメージでした。 でも、海外の国債や株式を買うのは、今後利子配当が期待できる金融資産が増えたことを意味しますので、いまは金融収支で「黒字」とされています。 海外での資産運用は、キャピタルフライトではなく、今後の収入を保証してくれる金融収支黒字要素と扱われています。 成長する海外企業に投資するのは良いことです。
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